慶應義塾大学医学部 血液内科

Division of Hematology Department of Medicine Keio University School of Medicine

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教育 血液内科出身医師からのメッセージ

塚田 唯子(東京都済生会中央病院 血液内科 医長)

東京都済生会中央病院 血液内科 医長
慶應義塾大学医学部血液内科学教室 非常勤講師
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会委員


はじめに

幹細胞が分化し、特有の機能を持ち成熟していくように、若手医師・学生の方々もご自分の進路を考えるべくこのページをご覧になっていることと思います。
私は2001年に慶應義塾大学医学部血液内科学教室に入局して以来、現在も勤務先である東京都済生会中央病院で血液内科の臨床を続けている立場からメッセージを書かせていただきますので、血液内科に興味のある方々へご参考になれば幸いです。

なぜ血液内科を選んだのか

患者さん・ご家族・医療スタッフが手を携えて闘い、難病を克服していくことに魅力を感じたからにほかなりません。
いずれの診療科も、極めてやり甲斐があることは言うまでもありませんが、研修医として種々の診療科で学ぶ中、青天の霹靂のように血液疾患と診断された患者さん・ご家族に対し、より質の高い診療を常に心がける慶應血液内科チームの一員として学びたいと考えて慶應の血液内科学教室を選びました。特に女性医師や全国の医学部生がこのページを閲覧されていることを想定して書き添えますが、私は音楽高校を卒業後、音楽大学を経て医学部に入学し、他大学卒かつ現役に4年遅れの入局でしたが、素晴らしい同期や先輩の先生方に恵まれ、特に不自由を感じたことはありませんでした。

慶應血液内科を選んでよかった点

慶應血液内科を選んで良かったBest 3は以下の通りです。
1) 質の高い臨床
超一流のスタッフの先生方から血液疾患全般について学べるということは、臨床医を目指す医師にとってなににも代え難い魅力です。慶應血液内科の臨床は、文字通り血液腫瘍医療・血小板凝固医療を築いた先生方のDNAが受け継がれる臨床です。慶應血液内科は造血幹細胞移植のパイオニア的存在でもあり、此処で臨床医として出発することができたのは、私にとって非常に僥倖でした。
2) 質の高い基礎研究
私は病棟医として勤務しながら、血管内皮細胞の研究に携わる機会を頂きました。最先端の実験器具を用い、細胞を目の当たりにして、自分で立てた仮説を検証していくプロセスは、臨床医として患者さんに向き合う現在となっても非常に得難い経験となっています。基礎研究の進歩なくして治療成績の改善は有り得ず、同じ教室の中で基礎研究者と臨床医が意見を交換できることは大きな魅力です。
3) 豊富なネットワーク
たくさんの患者さん・ご家族と出会えること、そして診療・研究に携わる医師や、看護師・検査技師をはじめとする多職種の方々と出会えることは一生の宝物となります。 国内外を問わず、多彩な範囲のスペシャリストとまさに今日からつながれることで、何人もの患者さんの問題解決の扉を開けることが出来ました。

これまでのキャリアで工夫した点

現在の私の勤務先では、スタッフの半分が女性医師となっています。非血縁者間移植症例も含め、常時50人前後の入院患者さんを管理するにあたり、私の勤務先では個々の患者さんを血液内科スタッフ全員が担当することでシームレスな診療を行ない、かつ医師が完全な休日をとることが出来るシステムとしています。女性・男性にかかわらず、医師も1人の人間として様々なライフイベントに遭遇しますが、スタッフ同士が(骨髄中の多彩な血液細胞のように)それぞれの特性を活かしながら有機的に助け合うことで、柔軟性に富みながら強さもある、かつ和気藹藹のチームとなるように、そして患者さんへより良い医療が提供することができるように心がけています。

後輩へのメッセージ

私は21世紀の幕開けとともに入局しました。それは奇しくも本邦でTKIや抗CD20モノクローナル抗体が使用できるようになった黎明期であり、研修医時代に救えなかった命が助けられるようになるのを目の当たりにしてまいりました。薬物療法・移植医療は進歩を続け、画期的なCAR-T療法も進化し続けており、今後、更に全く新しい概念の治療が生まれてくることも夢ではありません。このホームページをご覧の皆様が、この魅力あふれる慶應血液内科の臨床や研究に携わり、素晴らしい足跡を刻まれて行くことを心から願っております。

松下 麻衣子(慶応義塾大学薬学部病態生理学講座 准教授)

私は慶應義塾大学医学部を卒業して内科学教室に入局し、研修医2年目から血液内科の池田康夫先生の大学院に入学しました。当時は治療法も限られており、造血幹細胞移植をしても再発してしまう患者さんをみるにつけ、何とかならないかと強く感じていました。その後、慶應血液内科のご出身であり、腫瘍免疫学の分野で世界的に活躍されている河上裕先生が、長年いらしたアメリカの国立衛生研究所(NIH)から帰国され、医学部の先端医科学研究所細胞情報部門の教授に就任されたため、そちらで研究をさせていただくことになりました。先端研では基礎研究について一から教えていただき、白血病における新規がん抗原や、造血幹細胞移植後のGVL効果に関わるCD4陽性T細胞についての研究を行いました。

2001年から、アメリカ・ニューヨークにあるMemorial Sloan-Kettering Cancer CenterのMichel Sadelain博士の研究室でポスドクとして、CAR-T細胞の開発研究に従事しました。現在、CAR-T療法は急性リンパ性白血病やリンパ腫の治療法として大変注目されていますが、当時はかなりマイナーな分野で、実際に臨床応用されるのは大変ではないかと思っていましたが、その後、アメリカ、そして日本でも承認され、今では再発難治の患者さんにおいて重要な治療選択肢となっていることを感慨深く思います。

そして2010年に、芝共立キャンパスにある薬学部の服部豊教授の講座に赴任いたしました。服部先生も血液内科の先輩で、奇しくも留学先の研究所も同じというご縁がありました。薬学部では教育に携わり、臨床免疫学や薬物治療の講義・実習を行っています。薬剤師は以前より積極的に治療に関わるようになっており様々な知識や能力が必要なので、やりがいがあります。加えて、医学部の学生にもクルズスを行う機会をいただいており、薬学部の学生とはまた少し違う反応を楽しんでおります。

また、薬学部に異動した後も、岡本真一郎先生のご厚意で血液内科の臨床研究カンファレンスに参加させていただき、当時血液内科で行っていた慢性骨髄性白血病患者さんがイマチニブにより長期に分子学的寛解に入ってから服薬を中止した後の免疫反応に関する解析研究をさせていただきました。医局の先生方には、検体採取を含め大変お世話になりました。現在は、多発性骨髄腫を中心に、新たな抗原を標的とした遺伝子改変T細胞の開発や、薬剤の免疫修飾作用に関する研究を行っています。

このように、私は血液内科の実臨床からは離れておりますが、原点は慶應の血液内科で貴重な経験をさせていただいたことにあります。また、女性として出産、育児などのライフイベントの中でも、常に血液内科の先生方の温かいご配慮があり、仕事を続けて来ることができました。

血液内科の臨床は大変やりがいがありますが、研究も本当に面白い分野です。特に女性はフルに臨床業務ができない時期もあるかと思いますが、そういう時も別の角度から血液疾患に関わることができることを知っていただければ幸いです。

矢部 麻里子(Memorial Sloan Kettering Cancer Center 血液病理学教室スタッフ)


略歴

1998年慶應義塾大学医学部卒。
内科研修医(慶應義塾大学病院、けいゆう病院、永寿総合病院)を経て、2001年に慶應義塾大学医学部血液内科に入局。
2007年に米国Scripps研究所に留学。
その後、米国医師免許を取得し、病理診断学・臨床検査医学の研修医(2010年-2014年、Mount Sinai St. Luke’s-West Hospital, NY)、血液病理学の専修医(2014年-2016年、MD Anderson Cancer Center, TX)を終了後、2016年よりMemorial Sloan Kettering Cancer Center 血液病理学教室スタッフ。
造血器疾患の診断に従事。
米国病理診断学専門医、米国臨床検査医学専門医、米国血液病理学専門医。

なぜ血液内科を選んだのか

理由は良く分かりません。ただ単純に惹かれました。 学生時代に造血器系・血液内科の授業が楽しく、内科の研修医になった後も裏切られることなく、ここしかない!と迷わず決めました。血液内科に入局後、スタッフとして実際に働いている際に、自分の興味は「診断」の部分にあることに、遅ればせながら気がつきました。 病理診断学を学び直し、専門を血液病理に変えて、今に至ります。

慶応血液内科を選んでよかった点

慶應の血液内科で学べるというのは非常に贅沢な環境です。 日本の血液内科を牽引されている先生方に囲まれます。 また、私個人の特殊なキャリア形成を振り返ると、ターニングポイントになる全てのタイミングで、慶應の先生方が助けてくださいました。 Scrippsに留学できたのも、米国医師免許を取得後に研修医・専修医選抜を勝ち抜けたのも、全て先輩方のサポートのお陰です。 今のポジションにおりますのも、先輩方のお力添え無しには、なし得なかったことです。

やりがいを感じる点

やりがいと言えるかどうかは分かりませんが、仕事が楽しいです。 楽しい仕事が、患者様方のお役に立て、社会に貢献できているのであれば、これ以上嬉しいことはありません。

これまでのキャリアで苦労された点

米国移民一世なので、アメリカに来て最初の10年(Scrippsでのポスドク、NYでの研修医、MD Andersonでの専修医)は、苦労以外は無かったと思います。 文化の違いはもちろんですが、一番大変だったのは、母国語でない言葉で、一から異なる専門分野を学ばないといけなかったことでした。 でも、それを乗り越えたからこそ、現在、何の問題もなく、こちらでスタッフとして臨床、研究、教育に携わっているので、必要な苦労だったのだと思います。今では全て楽しい思い出です。

後輩へのメッセージ

  • 鉄は熱いうちに打て。
  • 若い時の苦労は買ってでもしろ。
  • 継続は力なり。

この3つの諺は、本当であったと実感しています。 人生もキャリアもマラソンです。 状況に応じてスローダウンしたり、スパートをかけたりする必要があると思います。長く続けられるよう、完走できるよう、頑張ってください。

菊池 拓(日本赤十字社医療センター 血液内科(骨髄腫アミロイドーシスセンター)医師)

はじめに

私は2005年に横浜市立大学を卒業して、気がついたら医者になってこの記事を執筆している時点で20年くらい経ってしまいました。
私は学生の頃から造血幹細胞移植に興味を持ち、悪性腫瘍でも治癒を目指すことができ、しかも診断から治療まで自分たちが主体的な立場で患者さんと接することができるということで血液内科を志望しました。
造血器腫瘍は患者さんにとっては青天の霹靂の出来事です。患者さん自身は何の症状もないのにある日突然、宣告され、緊急入院となり、化学療法がスタートして…と人生が急にそして大きく変わることになります。そのような人生のターニングポイントに立ち会い、同じベクトルで患者さんと治療に向き合えるということも血液内科の大きな魅力だと思っています。
こうしたことと造血幹細胞移植を勉強したいという気持ちから血液内科医を目指し、初期研修医と後期研修医の5年間を都立駒込病院で過ごしました。そして5年間の研修が終わったのちに慶應の血液内科に入局しました。

慶應血液内科に入局した理由

当初は慶應の血液内科に入局するということはあまり考えていませんでした。医師5年目の時分に、たまたま慶應の血液を見学する機会があり、臨床の質が非常に高く、臨床医として成長できる環境だという印象を受けたのを覚えています。その印象で入局を決めたというあまり高尚な理由ではございません。

慶應血液内科の良かった点

私は、いま日本赤十字社医療センターの血液内科のスタッフとして医療に従事しています。慶應で育んだ知識・技術は他の施設に行っても十分通用するものと思っています。
慶應では造血器腫瘍の治療の化学療法に加えて、造血幹細胞移植、CAR-T治療など限られた施設でしかできないような治療が経験できますし、治験などの国際共同研究や多施設共同研究なども参加しているので、最先端の治療も経験できます。また、造血器腫瘍だけでなく、血液の良性疾患(凝固異常など)も多く経験できます。これも慶應の魅力ではないかと思います。
入局していきなり放置されることもなく、上級医がしっかりフォローしてくれるので、私のような他大学出身の方でも(もちろん慶應出身の方も)安心して入局できると思います。
私は臨床一本で生きてきましたが、研究に関しても自施設で最先端の研究をしているので、研究に興味のある方にとっても良い環境だと思います。
研究もやりたいし、臨床もやりたいしというような意欲のある方には慶応はとても魅力的だと思いますし、自分を成長させてくれるような環境は整っていると思っています。
また、医局員同士だけでなく、他科の医局員とも仲が良いのが慶應の特徴ではないかと思っています。あまり出身などにこだわらず、みんなで慶應を盛り上げよう。という病院の雰囲気なので非常に仕事がしやすい環境でした。慶應を離れた今でも慶應血液内科の医局員はもちろん、他科の医師にも相談させてもらったりと関係は続いています。

最後に

患者の治療が順調であればあるほど、患者さんは辛くもなく、入院生活を送ることになるので、退屈すると思います。いかに患者さんに「退屈した入院生活」を送ってもらうか、つまりいかに合併症を予知して、起きないようにするか、あるいは起きたとしても最小限に乗り越えるかというのは内科医の醍醐味であると思います。慶應血液内科でこのような醍醐味を経験してみるのはいかがでしょうか。きっと自分が成長できると思っています。